1 名前:名無しさん 投稿日:2019/01/15 19:16:56_70 ID:M1Wna0wS

自身を魔王だと名乗った彼女の表情はとても綺麗な笑みだった。
私へと伸ばされた手も、凛とした声も、何もかも美しくて言われなければ魔王だなんて思えない。
魔王だなんて思いたくない。
私は初めての自分の行いを後悔した。
私の行いは間違っていた。
だから私は、命を賭してでも守りたかったものをこれから裏切るのだ。

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 19:24:40_48 ID:M1Wna0wS

目が覚めるとそこは森だった。

「いやいや、どこだよ」

「つか、え?森?マ?」

「意味分かんないし、は?」

「とりあえず状況確認しよ」

私の名前は毒島喪子、名は体を表す通りにブスの喪女。
現代日本では生きにくい程のリアルモンスターフェイス。
言ってて悲しくなるけど顔が悪い以外はいたって普通のJKだったはず。
今日だって普通に学校に行って、それなりに頑張って勉強して、数少ない友達と下校していた。

喪子「うんうん、覚えてる覚えてる」

喪子「でもなんでこんな森?」

喪子「通学路に森とか無かったじゃん」
3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 19:33:53_02 ID:M1Wna0wS

喪子「下校中に寄り道して森行く?行かないっしょ」

喪子「思い出せー思い出せよ私ー」

『危ない!』

喪子「……あ」

喪子「そうだ、たしか……」

歩き慣れた通学路、大きな交差点の真ん中。
けたたましい音が鼓膜を震わせた。
眼前に迫るトラックと、驚愕に表情を歪めた友人の姿。

喪子「私、死んだんだ」

喪子「じゃあここ天国?」

喪子「いやいやただの森じゃん」

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 19:39:05_75 ID:M1Wna0wS

喪子「意味分かんないよー」グルル

喪子「……死んでも腹は空くのか」

喪子「とりあえず歩こ」

喪子「森なら木の実とか食べれるものもあるかもしんないし」

喪子「つか喉も渇いたー」

喪子「もしかしたら天国じゃなくて地獄なのかも」

喪子「ありえる」

喪子「ブス罪で地獄行きってか」

喪子「つらみ」

喪子「でも、なんでかな」

喪子「死んだのは、悲しくない」

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 19:49:38_35 ID:M1Wna0wS

喪子「歩きながら考えよう」

私は死んだ筈である。
モンスターフェイスではあるけれどトラックに轢かれて生きていられるようなモンスターボディではない。
ならここは天国か地獄か。
だが周囲はなんの変哲もないただの森だ。
天国らしい神々しさも、地獄らしい禍々しさもない。

喪子「小学生の頃に遠足で行った森にそっくりだし」

喪子「まあ森見ても区別とかつかないけど」

考えながらひたすら歩く。
歩いて歩いて、歩き続けてどれくらい経ったか。
空腹も喉の渇きも限界を迎えようとしている。
足は鉛のように重く、もう引き摺っているようなものだ。

喪子「もう、無理……」

二度目の死を迎えるなんて人類初なんじゃなかろうか。
なんて嬉しくない初めてだ。

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 19:57:59_10 ID:M1Wna0wS

目が覚めるとそこは森じゃなかった。

喪子「……どこここ?」

「お目覚めですか?」

喪子「うわっ!?」

「落ち着いてください、大丈夫ですよ」

「私は村娘、あなたを保護した猟師の娘です」

喪子「村娘さん」

少なくともここは地獄ではないらしい。
どこかの民族衣装のような質素ながら可愛い洋服を来た女性がいる地獄なんて聞いた事がない。

喪子「私は毒島喪子です、助けてくれてありがとうございます」

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 20:04:43_03 ID:M1Wna0wS

喪子「ところでここはいったい、私は」

村娘「ああ、待ってください」

村娘「お話しの前に教会へ行きましょう」

喪子「教会ですか?」

村娘「はい、ひと目見て分かりました」

村娘「あなたは魔獣に襲われて行き倒れていたんでしょう?」

村娘「その醜い外見、魔獣に呪いをかけられたに違いありません」

村娘「でも教会で司祭様にお願いすれば呪いを解いてもらえますから」

どうやら天国では私の外見は呪いレベルの醜さらしい。
これはこれで胸が痛くなる、悲しくなる。
もしかしたら穏やかな地獄の可能性も出てきた。

8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 20:15:44_62 ID:M1Wna0wS

村娘に連れられて教会へ向かう。
辺りを見渡せば木造の小ぢんまりとした家々が並んでいる。
まるでゲームにでも出てきそうな村だ。
ふと私の中にある考えが浮かんだ。

喪子「異世界転生……」

オカルト界隈で古くから話題にあがる異世界。
最近はネットを始めそんな異世界に死後転生する話が多く存在する。
現実的ではないが自分の状況を思えばあり得ないとは言い切れない。

喪子「まさか私がそんな」

村娘「どうかしましたか?」

喪子「あ、いえ、ちょっと記憶が曖昧でして」

村娘「呪いの影響でしょうか?」

村娘「でも司祭様ならなんとかしてくれますから安心してください」

9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 20:41:29_45 ID:M1Wna0wS

村娘に励まされながら着いた教会ではいかにもな長髪と顎髭を蓄えた老人が待っていた。

村娘「あの方が司祭様です」

司祭「話は村娘より聞いておる」

司祭「なんと醜い姿だ、よほどの呪いとみえる」

いえいえ生まれつきなんです、と心の中で呟く。

村娘「えぇ!?」

司祭「それは真か!?」

つもりが口から出てたらしい。
隠した所で意味もないので素直に答えよう。

喪子「この顔は生まれつきなんです、元からで呪いと」

司祭「生まれつき呪われている」

司祭「まさか、言い伝えの勇者とは……!」

10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 20:56:13_95 ID:M1Wna0wS

目を見開いて興奮した様子の司祭に恐怖を覚える。
どうやら呪いではないと言う言葉は聞こえてないらしい。
司祭は奥の部屋へ駆けると何かを持って現れた。

司祭「古に伝わりし伝説によると……」

大仰な語り口で司祭が話したのはRPGでよくありそうな設定だった。
少し違うのは勇者の見分け方が呪われているか否かだという事か。
なんでも魔王は倒される間際に最期の力で勇者の魂に呪いをかけたらしい。

司祭「故に、勇者は生まれたその日から身に余る呪いを受けているのだ」

村娘「まさか父が助けた方が伝説の勇者様だなんて」

勝手に盛り上がる二人に私は戦々恐々とする。
これは私がその魔王を倒しに行く流れなんじゃなかろうか。
どう考えても無理。
そもそも私はただの女子高生。
フィクションの世界なら何かしらチート能力を得ているんだろうけどお生憎様だ。
そんな力これっぽっちも感じない。

11 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 21:07:45_58 ID:M1Wna0wS

居心地の悪さを感じつつも勝手に居なくなる事もできず二人を眺める。
二人の話は止める人がいないせいか盛り上がり続けている。
私は魔王討伐の仲間を探す旅路の途中で悪辣なる魔王の手下に襲われた事になっている。
記憶が曖昧なのも勇者を恐れた魔王に消されたからと話している。
実際は全然まったく違うのに。

喪子「あのー」

司祭「記憶が戻るまでこの村で休んでくだされ」

司祭「ワシは村長でもありますから、村の者には言っておきますゆえ」

村娘「私も伝えてきます!」

喪子「いやいやそんな!この辺のこと教えてくれたらすぐ出てくし!あ、でも魔獣いんの!?怖っ!?」

司祭「おお魔王の呪いで混乱されても」役目は果たそうと!」

村娘「流石です勇者様!」

勘違い止まらない。

12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 21:13:28_70 ID:M1Wna0wS

結局、半ば無理やり村の宿屋に押し込められて宴が開かれた。
我が村に伝説の勇者様が!と騒ぐ村人達。
違うと言っても呪いのせい呪いのせいと聞いてくれない。

喪子「どうしようどうしよう」

喪子「これ絶対に魔王倒しに行かされるじゃん」

喪子「つか絶対に異世界転生じゃん」

喪子「あり得んし、あり得んし!」

喪子「死んだと思ったら伝説の勇者でしたって、やっすいラノベでももう使わない設定じゃないの!?」

喪子「もうやだー……」

喪子「私ただブスなだけのJKじゃん……」

喪子「魔王どころかスライスにだって勝てないってマジで」

13 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/15 21:16:59_24 ID:M1Wna0wS

喪子「ヤバすぎて頭回んない」

喪子「スライムをスライスとか無理無理」

喪子「武器とか使えないし」

喪子「魔法とか出せないし」

喪子「勝てる可能性/Zeroじゃん」

喪子「あ、死ぬわ」

喪子「死んで、死にかけて、また死ぬ」

喪子「あり得んし!」

喪子「あり得んし……」

14(1) 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/16 08:57:28_45 ID:/Hgr3cBS
おもしろい
期待して待ってる
15 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/16 23:51:39_23 ID:m5CS0iWS
>>14
ありがとう
16 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/16 23:57:48_88 ID:m5CS0iWS

勘違いの宴は夜通し行われた。
それこそ私が姿を消しても気付かない盛り上がりで。

喪子「マジ眠い……」

喪子「部屋は用意してくれたけどうるさ過ぎて寝れないし」

喪子「いっそこのまま逃げようかなぁ」

でも逃げる事はしない、いやできない。
村の外には恐ろしい魔獣がいるのだ。
伝説の勇者どころか喧嘩すらした事がないただの女子高生が丸腰で魔獣と遭遇したらどうなるかなんて考えるまでもない。
私に選べる選択肢は束の間の現実逃避だけだ。

喪子「あー星がキレイだー」

17 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/17 00:04:42_22 ID:n7f/QcpS

喪子「早く朝になんないかな……」

喪子「……もうここで寝ちゃおうかな」

喪子「私みたいなの襲う人とかいないだろうし」

ウトウトと船を漕ぎ始めた私が夢の世界へ旅立つ間際、誰かが肩を叩いた。

「こんな所で何してるの?」

喪子「……美姫ちゃん?」

違う、知らない人だ。

「ミキ?私は司祭の娘です」

司祭の娘「勇者様の姿が見えなくて、探しに来たんです」

喪子「……そうだよね、うん、ごめん」

18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/17 00:10:58_86 ID:n7f/QcpS

美姫ちゃんは私の数少ない、というか唯一の友人で親友。
私が死んだ事を悲観しないでいられる理由。
自分の人生が幸せだったと思わせてくれた存在。

司祭の娘「どうかされましたか?」

喪子「友達に、似てたもので」

司祭の娘「まあ!それは光栄ですわ」

司祭の娘「勇者様のご友人、どんな素敵な方なんでしょう」

喪子「美姫ちゃんは、ほんとに良い子だよ……」

19 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/17 00:23:24_56 ID:n7f/QcpS

毒島喪子という名前からブスな私とは真逆で同じな友人。
誰もが口を揃えて美しい評すると白百合美姫という存在。
彼女だけが私の醜さを越えて友人でいてくれた。

『私は何があっても喪子ちゃんだけの味方だからね』

醜さを面白がった不良に襲われた私を励ましてくれた言葉。
死にたい目に遭っても、それでも今日まで生きてこれたのは美姫ちゃんのおかげだ。

喪子「伝説の勇者なんて知らないけど、きっと世界を救うのは私より美姫ちゃんみたいな人だよ」

20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 20:41:49_30 ID:yLwNLBTS

喪子「私なんかには……」

司祭の娘「ならやっぱり貴女は勇者様ですわ!」

喪子「いやだからそれは」

司祭の娘「勇者様の元には勇者様に相応しい人が集まるものです!」

喪子「相応しい人が……」

もしそうなら、美姫ちゃんの友人として私は彼女に相応しい人間だったのだろうか。
もしも、もしも本当にそうなら。

喪子「頑張らないと、じゃん」

21 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 20:45:44_95 ID:yLwNLBTS

喪子「よし!寝る!」

司祭の娘「勇者様?」

喪子「眠かったらマジ何もできないし」

私の中で何かが吹っ切れた気がした。
どうせ一度は死んだ命、未練もないなら人の為に使うべきだ。

喪子「明日から忙しくなるぞー!」

22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 20:50:00_53 ID:yLwNLBTS

それなりに時間が経ったと思っていたが宴の様子は相変わらずだった。
私は枕に頭を埋めて少しでも音が聞こえないように工夫してようやく眠りについた。
そのせいか睡眠の質は悪くて、あまり良い目覚めではなかった。

喪子「二度寝したーい……」

宿屋の女将「起きたかい勇者様!朝食の用意はしてあるよ」

喪子「ありがとうございまーす」

23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 20:59:58_13 ID:yLwNLBTS

少し硬いパンをスープにひたして食べる。
ジャンクフードに慣れた私の口には薄味に思えたけど空腹のおかげかとても美味しく感じた。

宿屋の女将「予定は決まってるのかい?」

喪子「はい、ところでこの村に戦い方を知ってる人っていますか?」

覚悟を決めた私が最初に思った事は純粋な自分の弱さだ。
戦いなんてした事がないのだから仕方ないけど。
だから誰か戦える人に教わる必要があるのだ。

宿屋の女将「ならアンタを見付けた猟師がいいよ」

宿屋の女将「今でこそただの猟師だけどね、アイツも昔は名の知れた魔獣の討伐者だったんだよ」

喪子「はえー、ありがとうございます!」

24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 21:11:39_21 ID:yLwNLBTS

案内を申し出てくれた女将さんにお礼だけ伝えて猟師の家へ向かう。
ちょうど村娘が外で洗濯物を干していたおかげですぐに分かった。

喪子「あのー」

村娘「勇者様!」

喪子「猟師さんいますか?ちょっと話が」

村娘「いますいます!ささ中へ」
25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/18 21:14:59_72 ID:yLwNLBTS

猟師「おい騒がしいぞ、頭に響くだろ……」

村娘「遅くまでお酒を呑むからよ!」

村娘「そんな事より勇者様が来てくれたんだからシャキッとしてよ!」

猟師「勇者様が?」

喪子「えっと、おはようございます」

猟師の姿は私の想像とだいぶ違った。
てっきり筋骨隆々の大男かと思っていたらどこにでもいそうなおじさんだ。
本当に強いのか少し不安になる。

26 名前:名無しさん 投稿日:2019/01/20 20:57:38_14 ID:oNqwGkUS

喪子「宿屋の女将さんに猟師さんが強いって聞いて……」

猟師「おお、まあ村の中じゃあ腕の立つ方だとは思うが」

喪子「だったら、私に戦い方を教えてください!」

猟師「勇者様にぃ?」

頭を下げる私を見て猟師は訝しげに首を捻る。
当然だ。彼らにとって私は伝説の勇者、今更戦い方を教わる必要なんてない存在のはずなのだ。
だからって何もせずに外へ出る訳にはいかない。

喪子「その、呪いのせい?で身体が思う様に動かなくて」

喪子「だから一度特訓し直そうかな、なんて……」

27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:06:13_88 ID:oNqwGkUS

しどろもどろに言い訳を口にする。二人の視線が刺さる。
勘違いが、嘘がバレたのか緊張が走る。

猟師「……」

沈黙が痛い。
何か別の言い訳を重ねるべきか。でも墓穴を掘る事になりかねないか。
逡巡し、口を開きかけては息だけが洩れる。

猟師「……分かった」

長い沈黙は肯定的な響きを伴ってようやく幕を閉じた。

28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:12:45_66 ID:oNqwGkUS

猟師「俺に教えられる事があるか分かりませんがね、勇者様の頼みを無下にはできねぇってな」

喪子「……ありがとうございます!」

猟師はゆっくりと立ち上がるとついて来る様に促す。
家の裏手に小さな小屋があった。
中に入ると幾つもの武器が並んでいる。

猟師「どれも俺が使ってたやつだ」

猟師「勇者様はどんな道具を使ってたんですか」

答えに詰まる。
きっと答えた武器の戦い方を教えてくれるはずだ。
けど当然ながら私はどれも使ったことが無い。

29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:19:12_04 ID:oNqwGkUS

剣ならば学校の授業で剣道をした経験がかろうじてあるが、使えると言える程ではない。
弓矢なんてゲームの中だけ、斧にいたっては実物を見るのすら初めてだ。
答えあぐねている私に猟師は自分で答えを付けた。

猟師「ああ、勇者様は魔法の方をよく使う口かい」

乗らない手はなかった。

喪子「そ、そうなんです!」

喪子「でも呪いのせいで魔法が使えなくて」

喪子「なんで使わない戦い方が知りたかったんです!」

30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:27:21_86 ID:oNqwGkUS

猟師「ほお、流石は勇者様だ」

猟師「人間なのに魔法が使えるなんて」

喪子「え?」

猟師の言葉が引っ掛かる。
まるでこの世界の人間は魔法が使えないみたいな口振りだ。
魔王がいて、勇者がいて、魔獣に呪いになんてファンタジーな世界なんだから魔法も当然あると思っていた。
けど実際は使えないのだとしたら私の選択は危うい。

喪子「あ、いや、でも今はちょっと使えない、みたいな?」

喪子「使えるようになるかも分かんないみたいな?」
31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:32:57_21 ID:oNqwGkUS

魔法を使ってみてくれ、なんて言われたら一発で嘘がバレる。
私には魔法なんて欠片も使えないのだから。
慌てて言い訳をする姿は不審に見えただろうか。
けれど気にする余裕はない。

喪子「あー!これ!剣とか?ちょっと触った事あるし!」

喪子「教えて欲しいなー!的な!?」

猟師「お、おう」

猟師「それで経験はどれくらいあるんだ?」

喪子「あっ……えっと、ほんとに、その」

猟師「口で言うより振るほうが早いか」

32 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:38:37_23 ID:oNqwGkUS

猟師は刀身が剥き出しの剣を投げて寄越す。
思わず避けると甲高い音が響いた。

喪子「す、すみません」

猟師「……いや、悪かったな」

多分、勘だけど、バレた。と思う。
猟師は辺りを見渡して陰から私達のやり取りを見ていた村娘に他所へ行くよう言った。
しぶしぶ離れてくい村娘の姿が見えなくなると猟師は天を仰いで何かを呟いた。

33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/20 21:42:31_46 ID:oNqwGkUS

猟師「お嬢ちゃん」

勇者様、とは呼ばれなかった。

猟師「悪かったな」

それが何に対する謝罪かは聞くまでもないだろう。

猟師「森を抜けたら大きな街がある」

猟師「そこまで案内する」

猟師「村の奴らにはうまく言っとくから」

優しい人だ。
だからこそ私は言わなければならない。

喪子「戦い方を、教えてください」

34 名前:名無しさん 投稿日:2019/01/27 17:11:05_97 ID:C2UwGhSS

私は嫌いだった。
他人より容姿が劣るというだけで蔑む人間が嫌いだった。
こんな容姿に産んだ両親が嫌いだった。
綺麗なものしか認めない世界が嫌いだった。
そして何より、そんな自分が大嫌いだった。

喪子「私には大切な友達がいました」

喪子「彼女だけが私を好きだって言ってくれた」

喪子「彼女だけが私の味方だった」

喪子「彼女だけが私に人間にしてくれた」

喪子「だから、彼女がしてくれたみたいに私も誰かの救いになりたいんです」

喪子「彼女に相応しい人間でありたいんです」

喪子「その為に戦わないといけないなら、私は命を賭けてでも戦おうって決めたんです」
35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/27 17:19:17_73 ID:C2UwGhSS

喪子「だから、戦い方を教えてください」

猟師「……お嬢ちゃん」

喪子「分かってます、無茶なこと言ってるって」

喪子「でも、でも!」

喪子「みんなそれを望んでるじゃん!?」

喪子「私は!勇者じゃないって何度も言ったのに!」

猟師「それは、悪かったと」

喪子「今さら違うって言ってどうなるの」

喪子「だったら本気でやんないとじゃん」

喪子「みんな騙して、逃げたとか、無理じゃん」

喪子「そんなダサい私じゃ美姫ちゃんに顔向けできない」

喪子「私は、もし死んでも頑張ったって胸張って笑える人間でいたい」

36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/27 17:28:18_11 ID:C2UwGhSS

『喪子ちゃんのいつも一生懸命で優しい心が大好きなんだよ』

喪子「それが美姫ちゃんが好きだって言ってくれた私だから」

猟師「…………」

喪子「お願いします」

猟師「………………本当に死ぬかもしれないぞ」

喪子「覚悟は決めてます」

猟師「……分かった」

猟師「ただ俺は教えない」

猟師「いや、教えられない」

37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/27 17:36:52_15 ID:C2UwGhSS

猟師「俺は確かに腕は立つ」

猟師「昔は魔獣だって狩ってた」

猟師「けどそれは魔王が復活するまでの話だ」

猟師「十数年前を境に魔獣を始め魔族が急に凶暴化したんだ」

猟師「……俺は、歯が立たなかった」

猟師「それ以来魔獣の討伐を辞めてただの猟師になったんだ」

喪子「それじゃあ」

猟師「ただ、さっき言った大きな街になら強い奴がいる」

猟師「俺は辞めたが知り合いはまだ魔獣を相手にしてる」

猟師「そいつに頼めば指南してくれるはずだ」

猟師「それに街でなら仲間も見付かるだろうしな」

38 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/27 17:44:21_62 ID:C2UwGhSS

猟師「話は俺がつける」

猟師「元はと言えば俺達の勘違いのせいだ」

猟師「せめてそれぐらいはさせてくれ」

猟師は早々に他の村人達に話をつけると駆けていった。
小屋にある武器は好きに使っていいと言ってくれたから試しに触ってみる。
案の定、どれも使える気がしない。
それでも何かないか探して、小屋の奥に埃を被った箱にあった一番小さなナイフを取った。
護身用に無いよりはマシだ。
39 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/27 17:55:31_44 ID:C2UwGhSS

戻ってきた猟師は明日の朝に村を発つと言った。
正直、長居してボロを出しても困るから助かる。

猟師「そういえぱお嬢ちゃん金はどれくらいもってるんだ?」

何にしても先立つ物は必要であると聞かれて気付いた。

喪子「私、お金持ってない」

そもそも身一つで異世界に転生させられてお金なんてあるわけない。
仮に荷物があったとしても日本のお金が使えるとも思えなかった。

喪子「ど、どうしよう……!?」

猟師「あぁ……まあ森で行き倒れてくらいだしな」

猟師「俺も金持ちじゃないからな、少しは用意できるが期待はしないでくれ」

喪子「いやいや!そんな悪いって!」

猟師「流石に文無しで行かせられんだろ」

40 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:01:39_99 ID:CvwRCSLS

喪子「自分で稼ぐし」

喪子「バイトとかして」

猟師「バイト?なんだそれは」

喪子「バイトないの?」

猟師「聞いたことないな」

喪子「じゃあどうやってお金稼いでんの!?」

猟師「普通に依頼を受けたり物や技術を売ったりだな」

喪子「マジかぁ……」

41 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:06:24_97 ID:CvwRCSLS

猟師「手っ取り早く稼げるのは魔獣討伐だが」

喪子「無理無理!」

猟師「当たり前だ」

猟師「とは言え売れる物も持ってなさそうだしな」

猟師「何か特殊な技術とか持ってるか?」

ただの女子高生が特殊な技術なんて持ってるわけない。
そう答えようとしてふと思い留まる。
私は確かにただの女子高生だ。
けど一つだけ自慢できる事があった。

喪子「私めっちゃ手先器用です!」

喪子「だから何がでるって訳じゃないけど」

42 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:11:23_96 ID:CvwRCSLS

喪子「でも簡単なDIYとか小物作りできるし」

猟師「でぃーあ……なんだそりゃ」

喪子「日曜大工的な?」

喪子「簡単な家具とかなら直したり作ったりできる」

猟師「家具職人か」

喪子「あとアクセサリーとか作ったりもできる」

喪子「装飾具?とか呼んだ方が分かりやすい?」

43 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:21:51_41 ID:CvwRCSLS

私はブスだ。でも女子だ。
可愛い物だって好きだし使いたい。
けどそういった店に入ると店員達は露骨に嫌な顔をした。
遠回しに退店を勧められた事も何度もある。
だから私は買う事を諦めて自作の道を選んだ。

喪子「ぶっちゃけすごく自信あります」

猟師「装飾具が作れるのか……」

猟師「もし魔石が扱える様になれば需要は高いぞ」

喪子「魔石?」

猟師「……おかしな言葉を使ったかと思えば、当たり前の事を知らなかったりするな」
44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:32:10_38 ID:CvwRCSLS

魔石、とは文字通り魔力を含んだ鉱石の事らしい。
魔獣や魔人を倒す事で手に入るかなり貴重な物で、加工できる人間も少ないそうだ。

猟師「俺達みたいな普通の人間は魔力を持たないが、魔石があればその恩恵に預かれる」

猟師「自分の筋力を底上げしたり、素早く動けるようにしたりできる」

猟師「他にも怪我を治したり気配を消したりなんかもできる」

猟師「便利なんだが、そもそもの数が少ないからな」

猟師「魔石の大きさは対象の魔力量に比例する」

猟師「当然討伐しやすい弱い魔獣なら極小の魔石しかできんし」

45 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/29 20:36:07_86 ID:CvwRCSLS

喪子「ドロップアイテム」

猟師「どろ?」

喪子「倒した魔獣が落とす的な」

猟師「いや落としはしない」

猟師「魔力を作る内蔵が死後鉱石化するんだ」

喪子「内蔵……」

猟師「だから討伐後は素早く解体しないとならん」

猟師「まあ魔石以外にも肉や革、素材の回収も必須だがな」

喪子「リアルモンスターハンターだ」

46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2019/01/31 08:18:15_54 ID:MYhDYWNS
店員のブスの扱いがなかなか酷いな